今回は、うつ病の中でも、メランコリー型うつ病の話。
「精神科医はみんな大好きメランコリー型」
なんていうけど、
実際にメランコリー型のひとを担当してみると、
なかなかに頑迷というか、苦労することも多いものでして。
でもまずうつ病を考えるときに抑えておかなくてはならないのが
メランコリー型というものです。
メランコリー型うつ病とは?
「気合い」じゃ治らない、メランコリー型うつ病のリアル
〜職場で見逃されがちな典型的うつの正体〜
うつ病というと、「気分が落ち込む」「やる気が出ない」くらいのイメージを持つ方も多いでしょう。
しかし精神科医として現場にいると、「それ、典型的なメランコリー型ですね」と即答したくなる症例に、案外よく出くわします。
このメランコリー型うつ病。
実は職場で最も見逃されやすく、そして放置すると最も厄介なタイプのひとつです。
精神科産業医の視点から、特徴・原因・対応まで一気に整理してみましょう。
メランコリー型は「がんばり屋ほど重くなる」
- 楽しかったことが楽しくない
- 気分が朝にどん底
- 食欲・体重の急落
- 強烈な罪悪感
- 動きが遅くなる、またはそわそわして止まらない
これらが揃ったら、かなり典型的なメランコリー型うつ病と見てよいでしょう。
「それってただの疲れじゃ?」
と思った方、ちょっと待った。
このタイプの人は、“ただの疲れ”で済まそうとする力技の持ち主なのです。
なぜ「まじめな人」がかかりやすいのか?
メランコリー型の背景には、以下のような傾向があります。
- 完璧主義
- 強い責任感
- 他者に迷惑をかけまいとする配慮
- 感情のコントロールが“良識的”
つまり、「社会人として模範的」とされがちな人たち。
こういう人ほど、自分の不調に気づくのが遅れ、限界を超えてもなお働き続けようとする。
そして、**「自分の努力不足だ」「私が悪い」**と、自責のループに入る。
医者から見れば、「いや、それ脳内のセロトニンとかノルアドレナリンの問題だから」と言いたくなるのですが、本人には伝わらない。
職場で現れる“異変のサイン”
こんな変化、見逃していませんか?
- ミスが増える、注意力が落ちる
- 朝の出勤がつらそう(遅刻が増える)
- 「役に立てていない」と繰り返し言う
- 笑顔が減った
- 「大丈夫です」しか言わなくなる
これらはすべて、メランコリー型うつ病の予兆になり得ます。
とくに、「いつも真面目な人」ほど要注意。
変化があったら、まず一声かける。
そして可能であれば、産業医に相談してほしいところです。
治療は「根性論」ではなく「医学的介入」
このタイプのうつ病、精神論でどうこうできるものではありません。
- 脳内物質のバランスが崩れている
- 意欲を出せないのは「怠け」ではなく「症状」
- 早期の休養と薬物治療が基本
逆に、無理して働かせ続けると、重症化しやすく、回復にも時間がかかります。
企業としても、ここを理解して対応を誤らないことが、組織全体のリスク管理につながると言えるでしょう。
復職支援と「戻しすぎない」配慮
メランコリー型の方が回復してくると、また自分を責め始めます。
「迷惑をかけたから早く取り戻さなきゃ」
「これくらいできて当然だよね」
……で、再燃。というパターン、何度見たかわかりません。
- 段階的に業務を戻す
- 定期的に産業医面談を行う
- 本人の自己評価に頼りすぎない
これらが、職場にできる最大のサポートです。
「甘え」ではなく「病気」であると伝える
未だに耳にします。「うつって甘えじゃないの?」と。
いや、もうそれ、昭和の根性論です。
とくにメランコリー型うつ病は、一見“がんばれてる”ように見えるのが厄介。
- 教育研修での啓発
- 管理職への周知徹底
- 相談しやすい職場文化の醸成
こうした地道な努力が、じつは企業の生産性や人材定着率にも大きく影響してくるのです。
まとめ:見逃さず、責めず、支える
メランコリー型うつ病は、よく働き、よく責任を感じる人に起こります。
「不調の自覚が薄い」「無理して働き続ける」「自責が止まらない」といった傾向があり、周囲の理解と配慮が何よりも重要。
産業医として言えるのは、以下の3点です。
- 異変に早く気づくこと
- 無理をさせないこと
- 医療につなげること
これが、職場の安全と本人の人生を守るカギになります。
「誰にでも起こるかもしれない病気」に対して、「誰でも相談できる空気」を作れるか。
それが、本当に“健全な職場”かどうかの分かれ目でしょうね。
あんどもあー、またはよしなしごと
最近、精神科産業医として活動する中で、
心の師匠の1人、井原裕先生とお話させていただくご縁をいただきました。
その中で、そうきたか!!と気づかされた視点。
「メランコリー型うつ病もその時点でのブームというか、その時の世情を背景にしたうつのあり方であった」という言葉
そうかもしれぬ。
自分でも世相の変化と精神科診断のはやりすたりの関係には敏感でありたいと思っていたけれど、
最近の変化を考えるばかりで、
過去の伝統的診断にまでその考えを広げる視点がなかった。
まだまだだなー、自分。
そして、うつ病は統合失調症よりは疾患概念が定まったものであり、
診断が揺らいでいるというか、
言葉が揺らいでいるのは人口に膾炙して
「うつ」が一般用語になったからだと思っていたけれど、
そればかりではなく、
うつ病も統合失調症のように、
まだ不定の概念として、
その時の時流に影響を受けて変化していくものととらえるべきなのか。
昔はよく見たけど最近はあまり行き当らない、ということは、
Stableなものではなかったと考えるのが妥当かもしれない。
そうかもしれぬ。
まだまだだなー、自分。
